第3回 黄金色の群れの秘密  〜背高泡立草〜 2017-06-05T15:25:10+00:00

Project Description

秋の始まりを謳歌していた虫の音も知らぬ間に消えてしまう10月。少しだけ緊張感をもった爽やかな秋風が肌に触れるその頃、河原や近所の空き地を背高泡立草が埋め尽くしている風景をよく見かけます。澄んだ空気を突き抜けるように地表に届く太陽の光を浴びて、黄金色に輝く背高泡立草は、その名の通り私たちと同じくらいの背丈までまっすぐに伸びて秋風にゆらゆら揺れています。

背高泡立草(キク科アキノキリンソウ属 Solidago altissima)は、海の向こう、北米原産の帰化植物です。明治時代に日本に入り、第二次世界大戦後の1950年代から北九州で徐々に増え始め、その後北上して今では日本のあちらこちらで絶大なる勢力を誇っています。この驚異なる繁殖力にはどんな秘密が隠されているのでしょうか。

 

多年生草本である背高泡立草は、種子によるものと地下茎によるものの2つの繁殖方法を持っています。また、帰化植物であるために敵となる病害虫が少ないこと、更には背丈が1.5〜2mに達して密生するため、近辺が暗くなり他の植物の生育に必要な光が届かないなど、勢力拡大にはいくつかの原因が考えられています。そして、戦後日本の高度成長期に急激に進められた宅地造成がたくさんの空き地をこの帰化植物に提供したことも繁殖と定着に拍車をかけたといわれています。

ローズマリーなどの精油に含まれる1,8-シネオールやカンファーなどの成分は、私たちはその抗菌作用や浄化作用,賦活作用などを植物療法として生かしていますが,自然界では他の植物の生育や発芽を妨げるアレロパシー効果があるとして知られています。植物たちは自分たちがしっかりと子孫を残して繁栄していくための生存競争を繰り広げていて,これらの成分は,その生存競争の際の武器となるのです。背高泡立草の勢いにも、アレロパシー効果が加担しているのではないかと探索が試みられました。その結果、背高泡立草の根に含まれる成分である2-デヒドロマトリカリアエステルとポリアセチレン化合物に強いアレロパシー作用があることが確認されました。

空き地で繰り広げられる植物たちの戦いについては更に詳しい実験が報告されています。秋に造成された近所の空き地は次の春から夏にかけてブタクサで覆われます。しかし、その次の春からブタクサの勢いは次第に衰え、変わりに春に白く可憐な花を咲かせるハルジオンやヒメジオン、夏から秋にかけて生い茂るヒメムカシヨモギとオオアレチノギクが領土を広げていきます。さらに3年目を過ぎるとこれらも少なくなっていき、背高泡立草に舞台が明け渡されます。このような主役交代劇で用いられる化学兵器がポリアセチレン化合物であることが実験的に確かめられています。

背高泡立草の揺れる秋の野原も数年後には新たな主役を迎えます。日本の秋、月でウサギが餅つく夜には欠かせない、ススキの出番が到来するのです。