第1回 春蕾開く啓蟄の頃 〜春の只中に自然とのつながりを感じる〜 2017-06-05T15:21:20+00:00

Project Description

2016年、新しい年が始まり、ひと月ほど過ぎました。一年の始まりは、もうすぐ私たちに訪れる新しい春を祝うときでもあります。春は少しずつ、私たちに近づいて、2月8日には旧暦のお正月、そして3月5日には啓蟄(けいちつ)を迎えます。

啓蟄とは、二十四節気の一つで、土の中で冬を過ごした虫達が住処の戸を開けて這い出して来る季節をいいます。それまで乾いていた空気が少しずつ湿り気を含むようになり、土の匂いが立ち上がり、いよいよ虫たちも春の訪れを確信して動き始めます。そして、虫と共に生きている植物たちも春の準備には余念がありません。宵に広がる沈丁花の香りを喜び、幻想的な白木蓮の花が開き、桜の蕾が少しずつ膨らむのを見ながら、私達もまた確かな春の躍動に心を弾ませるのです。

あんな小さな蕾の中に お花畳んで入れてあるの
誰が畳むのお花畳むの 春のお仕度誰がするの

これは、私が通った幼稚園で毎日のように口にした歌です。ドイツの文豪ゲーテは、花が蕾をつけるには、緻密で繊細な汁液が必要であることと述べています。畳んだ花を開くには何が必要か、開いた花は何をするのか・・。そんな小さな蕾に秘められた生命の不思議は、私達にも大変魅力的で、現在でも多くの科学者により、そのしくの研究が進められています。

 

蕾が開き美しく花を咲かせるのは、季節の変化を感じとり自らの発育を環境に適した状態に調節する力が植物にあるからです。昼間の長さ(日長)や低温などの季節のシグナルを受けて、花を咲かせたり(花芽形成)、果実を結んだり、休眠に入ったりします。

花芽形成を誘導する季節のシグナルとして、日長は大きな役割を担っています。日長が或る長さより短くないと花芽を形成しない植物は短日植物、長くないと形成しないものは長日植物、日長に支配されていないものは中日植物と呼ばれています。短日植物は日が短くなっていく夏の終わりに、長日植物は日が長くなっていく春先から初夏に花を咲かせますが、どちらにしても開花の鍵は、昼間(明期)の長さではなく、夜に相当する連続した暗期の長さであり、短日植物では連続暗期が一定以上になると、長日植物では一定以下になると花を咲かせるようです。

また、二年生植物やサクラソウやスミレといった多年生植物のように厳しい冬を越して逞しく生きる植物のなかには、花芽形成の為の季節シグナルとして低温を要求するものが多くみられます。花芽形成に関する日長の効果では、暗期の中断が一回でも起こると誘導が起こりますが、低温の効果は数日から数週間に及ぶ連続した低温が必要となります。季節の移り変わりの中で、日長の変化は夏至冬至を境にした安定した方向を持つけれども、気温の変化は結構気まぐれであることを植物もよく知っているのでしょう。

季節シグナルの受容と情報伝達については、古くから開花ホルモンの存在が考えられてきました。現在では分子生物学の手法を加えて、受容体や伝達物質の存在やしくみに関して盛んに研究されています。

私たち人間も春を迎え、植物の生きるエネルギーやそれらが刻むリズムから大きな力をもらっています。植物がこれから夏に向けて、あらん限りのパワーで生の百態を繰り広げます。その様を見せてくれることは、私たちにとっても大きな生きる糧になるものです。健やかで美しい毎日のために、植物の生きる力を精一杯活かす・・。そんな自然とつながった暮らしは、私たちに安心感をもたらしてくれるものだと思います。